東京音大Aブラス修了演奏会

28日のブログに書きましたが、昨日は東京音大のAブラス修了演奏会でした。

前半は「指導者実習」という管打楽器専攻生の、本来演奏する学生が指揮者となって、吹奏楽指導のスキルを身につけるべく、指揮の先生などからレッスンをうけて実際にコンサートの指揮台に立てるというものでした。


聞けば結構前からあったようなのですが、僕の頃にはありませんでした。「結構前」からあったのに、僕の頃にはなかった。結構前なのに。


そうか、もう卒業して20年近くになるんだものなあ。つい最近だった気がするんだけどなあ(遠い目)。


...誰が選曲したかわかりませんが、指導者実習のプログラムが個人的に素晴らしい。

吹奏楽の現場にあまり足を踏み入れていないのでわかりませんが、多分、今となってはほとんど演奏されていないんじゃないか、と思われる往年の名曲たち。

懐かしい。僕が学生の頃に流行ってた曲ばっかりじゃないですか。


それが、レベルの高い東京音大生の演奏で聴けるってのはとても貴重でした。


指揮者が管打楽器専攻生なので、不慣れなところがあるのは仕方ないかもしれませんが、その不慣れな指揮が演奏に与える影響を山ほど見せてもらったので、非常に勉強になりました。


せっかくなのでこの指導者実習を、吹奏楽部の指導をしている指揮に不慣れな学校の先生や指導者を対象として公開レッスンにしてしまうのもいいんじゃないかと感じました。指揮をする学生が生贄的な存在になってしまいますが。



そして後半は編曲させていただいた「ガイーヌ」です。


先日の洗足学園の学園祭で実はアンコールに「ガイーヌ」組曲の中の「レズギンカ」だけ演奏してもらっていました。同じ時期に国立音大でも演奏していただいたようです。


なので、組曲版としては初演。


先週の授業で初めて聴かせてもらったときに気になっていたことが本番では全部改善されているし、演奏に対する集中力は本当に素晴らしかった。



今回の指揮者、師匠の津堅先生からのリクエストは、「分厚いサウンドで」ということでした。


津堅先生は「せっかく大勢で演奏しているのに、吹いていないパートがあるのはもったいない」精神を持つ方なので、例えば僕がオリジナルに合わせてひとつのパートに「solo」と書いたとしてもフタを開けると全員で演奏している、なんてこともよくありました。

結局のところ、先生の判断のほうが演奏が素晴らしくなるので、当然反論もないし、そもそも僕は現場を知らないで楽譜を書いていますし、編曲って現場でその時の状況に応じた最善の状態に変えるべきものだと思っているので、ありがたいです。


なので、今回のガイーヌに関しても、ほとんど休符がありません。ごめんね。


ま、でもさ、1パートひとりじゃないから大丈夫。ね♪(←自分が吹かない編曲は容赦ない)



そしてトランペットパートの過酷さ。トランペットっていくつもの楽器を持ち替えられるので吹奏楽の中では最もマルチなパートです。
今回は普通のBb管トランペットとコルネットは通常編成として5パート確保して、ほとんどの曲にピッコロトランペット常設、そしてフリューゲル持ち替えを(確か全パートに)指示しています。ピッコロは、トランペット科の学外公演のときのように、超高音域(High Fとか)も書いちゃってたりして、彼らじゃないと吹けない楽譜にしました。だって出しちゃうんだもん。出せるなら書くよね。


でもその甲斐あって、演奏はとても重厚で隙のないサウンドになっていました。



吹奏楽の編曲、特にオーケストラ作品の場合が顕著なのですが、聴いていて頭を傾げてしまうことがとても多いのです。その最も大きな原因として思うのは、”オケにあって吹奏楽にないパートを、あらかじめ特定の楽器に委ねることを決めて書いている感”なんです。これが演奏をダメにしています。

一番よくあるパターンは、


ヴァイオリン→Bbクラリネット
チェロ→サックス、ユーフォ
ヴァイオリンのBbクラで出せない高い音→フルート、ピッコロ
クラの音量強化→コルネット
管楽器じゃ難しいかなあパート→鍵盤打楽器


これを元に当てはめて書けば確かに作業は早いです。何のイマジネーションも必要としませんからね。


でもね、どんなにクラリネットに人数がいても、その人たちがどんなに上手でも、ヴァイオリンの音は出ないんですよ。クラはクラとしての魅力的な音があるわけで、そんな簡単に「ヴァイオリンをクラに」なんて移動するものじゃない。


じゃあどうするか。


重ねるんです。水彩絵具を混ぜるように、いくつもの異なる楽器で同じ箇所を演奏してもらうんです。


オーケストラはあれだけ大勢で演奏していても「個の魅力」を発揮する場面がとても多く、それぞれのパートが独立して役割を果たしている。

一方吹奏楽は、音の重なりを基盤としていることに魅力があります。パイプオルガンを例に出すことが多いのですがまさに同じ。様々な異なるパイプを組み合わせてユニークなサウンドを作り出します。同じ作品でも奏者によって、演奏するオルガンによって全然違う音になる。


ですから、僕の場合オケ作品を吹奏楽編曲するときには、オルガニストがレジストレーションを考えるように、どの楽器とどの楽器を同時に演奏してもらうか、そればかり考えています。それが大変だし、楽しい。


別にヴァイオリンが演奏している場面だからって、ヴァイオリンの音が出なくても良いんです。だって吹奏楽で演奏しているんだからヴァイオリンの音なんて出せるはずがないわけで、お客さんもそんなこと求めて聴いていません。管打楽器の魅力を楽しみたいのですから。


先ほど「僕の場合」と書きましたが、吹奏楽ではこれが当たり前なんでしょう。今回の演奏会前半で吹奏楽の名曲たちを改めて聴いたとき、非常に重厚感があり、吹奏楽の素晴らしさを感じるのは、絶妙な「音の重なり」を考えて楽譜を書かれているのだ、とわかりました。



そして演奏会のアンコールはやはり来たか、超速の演奏。

先ほどガイーヌの組曲で演奏した「レズギンカ」の高速バージョンです。盗撮しているのTwitterで見つけたのでファゴット科さん、ちょっとお借りします。


そして定番中の定番、ギャロップ。

縦。角度的にちょっと見えにくいのですが、この曲だけ下手側にシンバルが4人います。ミニオンみたいでした。


ということで、これがただの学内でやってる吹奏楽授業の修了演奏会にしておくのはとてもとても勿体無いクオリティの高さと充実度でした。授業と言うよりもちゃんとエンターテイメントでした。素晴らしい!



津堅先生、学生のみなさんお疲れ様でした!




荻原明(おぎわらあきら)

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