「伴奏」という言葉があまり好きではありません。
伴奏って、どうしても「主」がいて、それに付き従うような印象を持ってしまうので。
発表会が近づき、音楽教室ではピアノ合わせの生徒さんが沢山いらしてます。プレスト音楽教室はいわゆる街の音楽教室的存在ではありますが、もっとも「音楽のお稽古」としてイメージしやすいピアノよりも、どちらかと言うと弦楽器がメインの教室です。
よって、発表会前になるとピアノの先生や外部からお願いしたピアニストさんと生徒さんで合わせをするわけです。
トロンボーン奏者で、作編曲家の福見吉朗氏がツイートされた言葉が印象深かったので、引用リツイートをさせていただきました。
日本人は「合わせる」を「自分の気持ちを抑える」「相手(トップ)の手下になる」と捉えがちですが、音楽でそれをやると不思議と合わないんですよね。
— 荻原明(Ogiwara,AKIRA) (@ogiwara_a) March 30, 2018
全員が主張しつつ、相手を讃え、同じ方向性を持って音楽を作ろうとする気持ちが大切だと思います。 https://t.co/KTqeRrWZA3
音大生の頃は試験やコンクール、オーディションとソロを演奏する機会が多いので、必然的にピアニストと合わせる時間もとても多くなります。
そのときの僕といえば俺様キャラ全開で、「ピアノっつーのはな、俺の音楽に合わせナンボじゃワレ」という間違った方言と間違った意識でピアノ合わせをしていました。まさに「伴奏」です。
だからピアニストさんに自分のイメージと違うことをされると不満だったし、指摘することも結構あったのではないかと思います。都合悪いことは忘れやすいのでうろ覚えで申し訳ない。
でもこの考え方は大変に間違っておりました。
音楽はトランペット奏者とピアニストが2人作り上げることに意味があって、そこには優劣も上下関係もありません。そもそも2人の位置を考えること自体が間違っていて、2人で1つ。ドラゴンボールで言うところのフュージョンなんです。
フューーーージョン!!!!
からのゴテンクス。
吹奏楽やオーケストラ、室内楽でもこれはまったく同じです。
例えばトランペットに始まる管楽器のほとんどは単音楽器なので、1吹きにつき1音しか出せません。よって、ドミソの和音を奏でるためには最低でも3人が必要です。
そして誰がどの音を担当するのかを楽譜に分けて書くことによって生まれるのがパート名で、「1st」「2nd」「3rd」と名付けることが一般的です。
なんとなく、1stって聞くと「トップ」と連想しますよね。実際音楽では1st奏者をこう呼びます。でもそれって、決して「偉い」わけではありません。そんなこと言ったら3rdは偉くない人みたいになってしまいます。
担当する内容が変わるだけであって、音楽としての優劣はありません。全員が大切で全員が必要なのです。
しかしここで日本人の気質が邪魔をします。
「主」と「従」の意識です。
日本には「奥ゆかしい」といった言葉があります。女性に対して使われることが多く、でしゃばらずに相手を立てられる機転の利く人への褒め言葉でした(敢えての過去形)。
年配の方だと、妻は主人の一歩後ろを歩くことが女性らしいとか、「亭主関白」とか「年功序列」「出る杭は打たれる」ということざわとか、いろいろあります。
地球上どこにでも主従関係はありますが、日本ではそれが消極的な意味合いを持っているという点が独特です。
上を立てる、下はでしゃばらずに従う。それが日本人の価値観であり、正しく美しいことだと教えられてきました。
これらすべてを否定するつもりはありません。僕も日本人ですから。
一方、クラシック音楽は西洋の文化。
日本の培ってきた気質とはどうしても相容れない部分があり、それがこの消極的な姿勢をとってしまう点です。
僕も学生のときはそうでした。音大のオーケストラの授業では2ndを担当することがとても多く、1st奏者の吹き方、ピッチ感、ちょっとしたクセとかタンギングとか、とにかく全部が1stと同じでなければならない、と勘違いをしていました。
でしゃばらないように、個性が出ないように自分を殺して音を出していて、いっそのこと1stのコピーになってしまいたいと思うほどでした。
面白いことにそういった意識で合わせよう合わせようと演奏していると、どんどん1stとピッチもスタイルも音色も離れていくのです。
ストレスは溜まるわ完成度は低いわ。
だからあまり面白くなかったですね。すべて自業自得。
吹奏楽やオーケストラ、室内楽では「合わせる」という言葉が頻繁に出てきます。しかしの「合わせる」とは、我々が持っている日本人の「合わせる」とは全然違っていて、全員がしっかりと主張し、お互いがお互いを讃え合い、ひとつの作品を素晴らしいものに作り上げようとする意思を強く持つことだと思うのです。
一歩引いて演奏するなんて、ダメ、絶対。
そのときのあなたや仲間が、そのとき偶然同じ場所に集まって、そのときにしか生まれない音楽を作るワクワク感。全員が個性を主張するから音楽は楽しいのです。
あなたの「合わせる」の意識はいかがですか?
荻原明(おぎわらあきら)
0コメント