音色を変えることはできません。

ふと先日の特別レッスンのことを思い出したのですが、ある生徒さんに「音色はどうやって変えるのですか?と質問されました。


確かによく話題になりますね、音色を変える、ということ。


でも音色は残念ながら変えることができません。同じマウスピースと同じトランペット本体を使っている限り、その組み合わせで発生する音というのは1つだけです。もちろんこれはベストの音(僕はツボに当たった音と呼んでいます)に当たった音に対して言っています。


でもきっとこう思うはすです。「実際にプロがどんどん音色を変えて演奏しているのを聴いたことがある!」と。しかし音色を変えるというのは、スイッチで切り換えるようなものではなく、言うならば1人の俳優さんが様々な役をこなしているのと同じです。


俳優さんは担当する役に合わせて衣装を変えて目つきを変えて、喋り方を変えて性格を変えたようにその役になりきるわけです。素晴らしい役者さんは、もはやその役者のような人間である、と思わせてしまうほどになりきってしまいますね。渥美清さんは日常も寅さんだと思われていたり、芦屋雁之助さんはいつもランニングシャツで貼り絵をしていると思われ、田中邦衛さんは北の大地でひっそりと暮らし、田村正和さんはいつでも謎解きをしているのではないかと(古い?)。


演奏者も役者さんと同じように、それぞれの作品や場面によってキャラクターを変えていく必要があります。しかしそれは別人になるわけではありません。ニュアンスなどを変えて、その作品が最も活きる(と思われる)演奏表現をする。それが「音色を変える」ということなのです。


そのレッスンでは実際に同じメロディを3パターン、全然違うように表現してみました。ひとつはスタンダードな演奏。もうひとつは無骨で荒々しい演奏。もうひとつは気弱そうで優しそうな演奏。音色は変えていませんが、生徒さんは「そう、今のように音色を変えるにはどうしたらいいのですか?」とおっしゃっていたので、まさにその時の僕は役になりきっていた、ということなのでしょう。


今回のお話した「音色を変える」という言葉だけでなく、音楽の世界に蔓延している言葉の中には直接的には解決できないことがたくさんあります。そうしたことを知るためにもやはりレッスンを受けることは有意義ですね。



荻原明(おぎわらあきら)

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