今年の初め頃に日本橋三越でパイプオルガンとコンサートをさせていただきまして、先日その動画が三越のオフィシャルYouTubeチャンネルで公開されました。
どのように録音されていたのか詳しくはわからないのですが、トランペットの音がダイレクトでオルガンが遠いので多分このカメラのマイクで音も録っているように思います。
ちなみにオルガンの音源であるパイプ群は僕の右手にある緑のカーテン内と、その対照位置にあるので、どうしても音がこもって聴こえます。
日本橋三越はこのオルガンのある場所が巨大な吹き抜けになっていて、とっても音が響きます。
実はこの動画とまったく同じ時に吹き抜けの少し離れた位置からiPhoneで撮影してもらった動画があります。聴こえ方を聴き比べてみてください。
いかがでしょうか。
iPhoneで撮影してもらった演奏のほうが、僕がイメージしていた(心がけていた)バランスに近いです。
コンサートは通常、演奏会場でリハーサルをします。その最大の目的は「この会場ではどのように演奏すると自分が求めているイメージに最も近い演奏を客席に届けられるか」を確認することです。
日本橋三越での演奏の際は、このような点を意識する必要があります。
・客席がなく、お客様は正面、横、上、下のそれぞれ数十メートル以上先にいらっしゃる(演奏者の近くには来られない)
・めちゃくちゃ響く(ずっと奥のデパ地下まで聴こえたらしいです)
・オルガンがこもって聴こえる、音があまり飛ばない(でも出力自体は高いので自分の右耳にはかなり鳴って聴こえてくる)
・デパートなので雑音、騒音、声がそこかしこから発生する
こんな感じです。
コンサートホールとはだいぶ違います。そのため、この会場でベストな演奏ができるよう、できるだけハッキリ演奏することなど、いろいろ工夫してリハーサルに臨みました。スタッフさんに離れたところから聴いていただいて、バランスについても確認しました。
ですので、三越オフィシャルの動画だと、どうにもトランペットの音量が大きく音圧も高く、言ってしまえば雑味の強い印象を持ってしまいますが、一方でお客さんのところで聴く演奏ではオルガンとのバランスは保てているように感じますし、そこまでトランペットが雑に聴こえないのがわかると思います。
どちらもまったく同じタイミングで演奏している音ですが、こんなに違うんですね。
演奏する会場によって音響はかなり変わります。例えば響きのない空間では、ブレスの瞬間音が消えてしまうのをダイレクトに客席に感じられます。一方で響く空間では同じ演奏をしてもブレス直前の音の響きの中にブレスが隠れて、音がつながって聴こえます。まったく響きのないスタジオでマイクにダイレクトに収録した音にリバーブをかけるのは、ある意味当然であり、これが電気的な加工だと批判するようなことではありません。
また、響きのない空間では(特に間近で聴くと)、音圧の変化やタンギング、それらを行う際に発生する唇の振動音や空気の流れる音、ノイズなどにより若干演奏が乱暴に感じる人もいるかもしれません。しかし。響きのある空間で遠くで聴くと、それがちょうど良いバランスに感じる場合が多いですし、間近で聴こえるブワンブワンした音圧変化は、客席にはちょうど良いアクセントとして聴こえます。
お風呂場で歌うと上手に聴こえて気持ち良い理由はこうしたことから生まれるわけです。
そういうことですから、響きのない空間のほうが若干上手ではないという印象(練習っぽい、素の状態)に感じる人がいて当然、ということです。あ、僕のこの演奏について言い訳しているわけではありませんよ。空間で印象が変わる、というもっと広義的なお話をしています。
荻原明(おぎわらあきら)
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