課題曲動画の無料公開はプライドがないから?後編


昨日のブログで、プロ吹奏楽団体WISH Wind Orchestraが課題曲を無料公開していることに苦言を呈しているそれは、僕としては違うのではないか、というお話をしました。

今日はその続き。


僕はWishが無料動画を掲載しているのはプライドがないどころか戦略だと思うのです。




[分母を増やす]

YoutubeでWishの良い演奏を聴いてどんな印象を持ちますか?聴き流して終わる人や反発する人も当然いる一方、


「Wishの演奏をもっと聴きたい!」

「この演奏を生で聴きたい!」

「この奏者の音色が素敵!」
「レッスンを受けたい!」

「なにこのイケメン!」


など、一定数の人はファンになると思いますし、仮に興味がなくても「Wish Wind Orchestraという吹奏楽団の存在」「課題曲をYoutubeにアップしているプロ団体」という何かしらの記憶は残ると思います。


例えば今度の課題曲I(上記に掲載した動画の曲)


この動画は公開から1週間程度で視聴回数100,000を達成しています。

YouTubeの視聴回数は「のべ人数」ですが、それだとしてもこの演奏が短期間で10万回再生され、たくさんの人たちに届いているのです。これは生演奏ではなかなかできないこと。


例えばサントリーホールはおよそ2,000席。武道館はおよそ14,500人収容。東京ドームですら55,000人です(Google調べ)。

プロ吹奏楽団が東京ドーム2日間ライブを満員御礼にできるかと言えば、きっと無理でしょう。

しかしインターネットなら可能ですし、実際に達成しています。コンクールシーズンはこれからですから、視聴回数は爆発的に増えることでしょう。


そう、インターネットの最大の強みは、アナログでは難しい「分母」を増やせるという点なのです。


まさにその通り。

従来の常識が新しい物事によって覆されそうになったとき、従来の常識を守りたい保守派の人たちは全力で「規制」や「否定」をし始めます。これが世の中を発展させない行動だと知らずに。



例えばこれまでの常識で考えたら、10万回再生するならCDにして売れば儲かるのに!と思うかもしれません。しかし、いきなりCDにしたら1週間で10万枚はまず売れないと思います。


昭和の頃は違いました。日本国民みんなが「およげ!たいやきくん」や「ピンクレディ」大好きでレコード発売日にはみんながお店に殺到するわけです。しかし時代は変わりました。そもそも音源をCDで買う時代でもなくなり、インターネットで必要なものだけ手に入れる賢い買い方をする時代です。CD化して音源を販売する発想がすでに古いのです。



Wishが10万アクセスを達成できたのは、インターネットで無料でハイクオリティなものだったからで、この動画を作るにあたっての裏事情はまったくわかりませんが、お金は多分ほとんど稼げてないと思います。その代わりに非常に大きな「信用」を手に入れていると思います。


その証拠に、Wishのチャンネル登録者数、現時点で24,000人超です。


動画を公開したら、瞬間で24,000人の人にお知らせができるんですよ。すごい威力。


あと、特筆すべきはコメント欄です。管楽器、吹奏楽系の動画コメント欄はだいたい荒れるんです。音程がうんたらかんたら、奏法が持ち方が音色が、、、「アタックってのはね、、、」とレッスンし始めちゃう人とかも結構多い。で、それに反論する人がいて荒れ果てる。

動画と直接関係ないところでアクセスが減る。


しかしWishのコメント欄はそういったことがほとんどありません。好意的なコメントが多く、非常に穏やかです。このあたりからも、Wishという存在がとても信用された存在であると推測できます。


動画の詳細欄を見ると、コンサート情報や各種のリンクが掲載されていて、Wishについてより詳しく、より距離を縮めたい人はそこから深く入っていきます。

分母が多いわけですから、それだけ活発な動きが起きるわけです。


これが一連の戦略だと思います。


ただ、余計なことかもしれませんがWishのオフィシャルサイトとか、もうちょっとクオリティ上げたり使いやすくしたり、積極的に使わないと勿体無いとは思います。動画のクオリティとのバランスが悪い。そこが完成されて、もっとアクティブになれば実際にコンサートに足を運んだり、様々な面での成功を促すことができるのかな、と思いました。



[コンサートフライヤーはもう必要ない時代]

先程CDは古いと書きましたが、同じような存在の、コンサートチラシ(フライヤー)というのも、もうこの時代必要ないんじゃないかと最近思います。


みなさんにお聞きします。

見ず知らずのコンサートチラシを受け取って、よし行こう!と実際に会場へ足を運んだ経験はどのくらいありますか?

「見ず知らず」ですからね。大好きな曲を演奏するとか、昔からCDで聴いてたいた奏者だからとか、そういうのナシで。


経験上、チラシを渡しただけでコンサートに来てくれた見知らぬ人ってほぼゼロですし、自分も行った経験ゼロです。時間もお金も手間もかけて数パーセントにも満たないアナログな宣伝活動に何の意味があるのか、と常々感じています。


その代わり、いつも親しくしていたり、すでに以前より何らかの繋がりがある方は、チラシを渡す前に知っていてくれたりチケットを買ってくれたりしています。


ということは、見ず知らずの人はチラシを見ても来てくれる可能性がほぼゼロで、お知り合いならチラシを渡さなくてもきてくださるなら、チラシって一体何のために存在しているの?となります。


結論:チラシは不要


そんな時間もコストもかかるようなことをするのであれば、分母を増やす信用持ちになれる活動を継続的にしたほうがよほど結果を出せると思います。



昨日の記事で話題にしました芸人の西野亮廣さんがこう述べています。


人が行動する時の動機は総じて『確認作業』だと思っています。
「そんなにヒットしている『君の名は』って、一体どんなだ?」と『君の名は』を観に行き、 ラーメン屋さんの行列を見て、「そんなに旨いのか?どれどれ」と行列に並びます。  
パリに行った時に、一応『モナリザ』の絵を観に行くのは、子供の頃に(画素数が最悪であろうと)教科書で『モナリザ』を見ているから、「生はどんなだ?」となりますし、
旅行なんて最たるもので、一度、テレビの映像なり、パンフレットの画像なりで、脳内に取り込んだ場所にしか僕らは行きません。 
「30万円払ってくれたら、とっても素敵な場所に連れてってあげるよ」と言われても、僕らの足は動かないのです。
僕らは思っている以上に冒険をしません。
すでに知っているものを、より詳しく知ろうとします。
これだけ選択肢に溢れた時代だと、余計に冒険をしにくくなるでしょう。
今、この時代に、『開けてからのお楽しみ』といった袋綴じ的なやり方は通用しないと僕は思います。 アタリかハズレか分からない袋綴じの隣に、露出度タップリの"そこそこ美人の"グラビアが並んでいるからです。
出典(https://lineblog.me/nishino/archives/9285035.html)




[僕もたくさん叩かれた]

僕も10年前にインターネット上で「ラッパの吹き方」というブログを書き始めました。毎週火曜日に更新し、これまでに休載したのは多分2回だけです。年末年始も関係なくラッパや音楽のことを延々と配信し続けています。

10年前はまだインターネットに偏見や不審感、嫌悪感を抱いている人がとても多く、子どもたちには有害だとかたくさん言われていました。こうやって否定的な意見を言うのはいつだって実際に使おうとしない保守派の年配者です。自分が知らないものが一般的になりつつあるのを察知して、取り残されてしまう恐れをそういった方法でしか表現できないのです。

そして音楽の世界もインターネットに対し否定的な人はとても多かった。というか、未だにインターネットを理解していない音楽家が非常に多い。


そんな時代にラッパの知識をブログで公開し続けたので、それはそれはたくさん言われましたよ。

中でも一番多かったのが


「なんでお金取れる情報をインターネットで無料公開しちゃうの?もったいない」

「そういうことをするとレッスンにくる人が減る」

「他のプロトランペット奏者に迷惑がかかる」


という意見。そういう情報は有料のレッスンで伝えるものだ、という発想。お、今回の課題曲の話題と同じですね。荻原はプロとしてのプライドがないのか、と思われていたのでしょう。


そんなことは想定済み。


だから僕は最初からそんな心配していませんでした。この配信を継続することで、僕の膨大な知識と伝える力、それによる変化を理解し、信用してくれる人が絶対にたくさんいる自信がありました。。

トランペットを習うことで自身の演奏レベルが(独学に比べると)こんなに上がるのか、という実感をする人が多くなるから、結果として他のプロトランペット奏者の迷惑どころか貢献できると思っていました。


トランペットでコンクール入賞したり、プロオーケストラに所属した人だけがプロトランペット奏者だと思われていた時代は、インターネットの存在で変わると最初から思っていました。案の定、最近は明らかに変わりましたよね。


いろいろと叩かれながらも継続した結果、「まるごとトランペットの本」のオファーをいただき、音楽教室で年間20回ほどの講習会や、ふいに開催する特別レッスンを企画すれば、全国から参加してくださる方がたくさんいらっしゃり、現在毎月継続してレッスンに通ってくださる生徒さんは35名いらっしゃり、そのノウハウで作った「トランペットウォームアップ本」は発売から3年目を迎えようとしてもなお、アマゾンでしか発売していないにも関わらず600冊以上の販売部数を記録し(昨年9月時点)、未だに販売上位に位置しています。

そして思い切って有料にした「ハイノート本原稿先行公開」のブログも、おかげさまで多くの方に購読していただいております。


しかし僕はこれと言った大きなソロコンクールの入賞もしていませんし、オーケストラに所属しているわけではありません。インターネットを活用していなかったとっくに音楽家の道は閉ざされていたはずです。しかし、自分ができることをとにかく継続したことにより信用してくださっている方がたくさんいらっしゃることで今も音楽家として生きていられています。本当に感謝しかありません。



さていかがでしょうか。


Wishの動画無料公開が、単にプライドもなくボランティア活動に専念している団体なのでしょうか。


僕の中の答えはすでに明白ではありますが、これから数年で僕と同じ意見になる方が圧倒的に増えることは間違いないとここで断言します。






荻原明(おぎわらあきら)

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