音大生こそギャラをきちんともらうべき


昨日このブログに書きましたが、東京オリンピックのマスコットを描いたイラストレーターさんには100万円の賞金のみだそうです。


そんなのありえない。


この発想が文化の発展を妨げている要因のひとつだと僕は思うのです。




よく耳にする「文化の発展」という言葉。それらのほとんどが、利用者の目線から言われているように感じます。

確かに、演奏やパフォーマンスをする人間の方が圧倒的に絶対数が少ないからしかたないのかもしれませんが、それにしても発信側がきちんとお金をもらえるシステムはほとんど考えられていないように感じるのです。


発信する側は自治体が作ったインフラ利用料を支払い、聴衆はチケットを購入するこの状態が文化の発展と思ってはいないでしょうか?


「ハコは用意してやったから、みんなどんどん使えよ!by 自治体」


といった具合。



例えば、豊島区は来年池袋西口にある東京芸術劇場の西口公園に野外劇場を作り、池袋駅からほど近い区庁舎後にも劇場ができるとのこと。

それはとても素晴らしいのですが、例えば西口公園の工事費は26.8億円かかるそうです。

じゃあ、インフラにそれだけかけて、その舞台で演じる人たちへ年間いくら支払われるのでしょうか。きっと、そんな企画は年間数件、多くて数十件でしょう。


豊島区ではなく、全然別の自治体のイベントに参加したときは、全部込みで10万円でした。個人に支払われるギャラではなく、全部込みです。出演者数問わず、練習場の支払いも、楽譜の購入も、交通費も食費も全部。

その条件でひとつの公演を終えて、純粋な収入として手元に残った額など、ほぼ無いに等しいわけです。


これでは次に続かない。



そんな感じで行われることの多い文化事業ですから、結局メインユーザーとして見据えているのは、利用料を支払ってくれるアマチュアの方々なのでしょう。


もちろんアマチュアの奏者、団体が活発に公演を開くことは素晴らしいことですし、それによって文化的にも活性化します。


しかし、それはそれ。



やはりプロとして活動している人が、今以上にたくさんの経験を積める機会...これはインフラがあるだけではダメで、しっかりした金額を自治体が支払う公演をもっともっと用意することが大切だと思うのです。



[原因は音楽家にある?]

音楽家は本当に稼げません。何をするにも単価が安すぎると思います。


しかし、それを助長している原因は音楽家側でもあるのです。


例えば音大生や卒業したばかりの若手の音楽家。みんな本番をしたいのです。演奏する機会を喉から手が出るほど欲しいのです。


しかし、音大卒の自称音楽家は飽和状態。人数の多さが異常です。

だから需要と供給のバランスが悪すぎて、多くの音楽家が満足できるような本番の数など存在しません。


そこで、こんな話が。


「お金ないんだけどさ、ちょっと演奏してくれないかな?」

「音大生なんだからさ、勉強の場だと思って」

「お金は出せないけど、いい宣伝になると思うよ」


これ。


でも自称音楽家は喉から手が出ているので、こんな最悪条件でも請けてしまうのです。



先日知人(プロ)が、アマチュアオーケストラの賛助で出演する話を聞き、そのギャランティに驚愕しました。


2回練習参加、1回本番で諸経費込みで5,000円。


ごごごごご5,000円?!


家から現場までの距離が遠いので、練習場所の往復でギャラは全額飛ぶとのこと。



...ごめん、その話を請けた理由がさっぱりわからない。



赤字になってまで演奏する機会が欲しいのなら、もうプロじゃないから(と思ったけど言わなかったけど)。



これは演奏だけじゃありません。もっと酷いのはレッスンや指導の現場。それも部活動など学校関係。


音大生や卒業したばかりの人を母校の先生が呼ぶ、なんてザラで、無料か交通費程度。

ほとんどの学校はカツカツの状態で部活動をしているのを知っているので、あまり強くは言えないのですが...。でも、だからと言って部活の事情と演奏者の生活を一緒にしてしまうのは間違っていて、演奏者の生活を優先しなければ、長く音楽活動を続けていけない。



音大生が無料で演奏会をさせられている現実。それでも演奏してしまう現実。


赤字になってでも本番に参加してしまう現実。それでも演奏してしまう現実。


母校だからと指導ギャラを支払わない現実。それでも協力してしまう現実。





「だって、この前来てくれた子、タダで演奏してくれたよ。なんで君にはお金払わないといけないの?」


クライアントにこう言われたら返す言葉がありませんよね。だから前例を作った人(無料か格安で請けた人)が悪い。




音楽の世界は本当に狭い。周りの社会との繋がりが非常に少ない。

しかし芸術家の前に人間だし、日本という土地に住んでいれば、他の人と同じ保障を受けるかわりに当然国にお金を払う。


例えば、一般的な会社員の方で保険料なども全部含めて、1ヶ月に30万もらっている人がいるとします。完全週休二日制だったとして、およそ22日間フルタイムで仕事をしたら、毎日13,000円以上稼いでいるわけです。



音大を出るなどして、自称音楽家の人で同じ額かそれ以上を稼いでいる人、いったいどれくらいいるのでしょうか。

1日何か音楽に関わる仕事をして13,000円以上コンスタントに稼いでいる人はどれくらいいるのでしょうか。



でも、最低でもそれくらい稼がなければ一般の人と同じ水準の生活はできないわけです。



僕が言いたいのは、クライアントへはきちんとした額を支払ってもらうよう、交渉すること。(提示された金額ではできないと)きちんと断る勇気も同時に持つこと。


その仕事が、生活を維持する金額、次に繋がる活動資金になるかを考えてから判断すべき、ということ。


本番ができるという一時的な満足感だけで、現実的な側面(経済的、生活面)を忘れてはいけない、ということ。


音楽に関わる全員がこの姿勢をきちんと持っていれば、「音楽家の演奏」という物価も少しは安定すると思っています。少なくともプロに演奏してもらうにはお金がかかる(無料という発想を持たない)はずです。



音大って自分をマーケティングする方法や、演奏でお金を稼ぐ方法を教えないから、4年間を費やし激上がりした演奏スキルだけを持って社会に放り出されて、バイトしながら練習して、タダかそれに近いギャラの本番でも請けてしまうという最悪な循環に陥っています。


こんな状態だから「音楽はお金がまわらない」と一般の人に思われるので、ビジネスとして注目されない。


これは本当に近々に解決していかなければならない課題だと思います。




荻原明(おぎわらあきら)


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