昨日このブログに書いたクラシックが堅苦しいと思われる理由の続きです。ご覧になっていない方はぜひこちらも。
僕が中学生の頃なので、もう30年ほど前になってしまいますが、当時ピアノを弾くのがめちゃくちゃ好きでしたが、当時は家に電子ピアノしかなかったので、音楽室にあるグランドピアノを弾きたくてしかたありませんでした。グランドピアノの出力ってやっぱ「俺が弾いてる感」が強くてたまらない。
グランドピアノが弾けるチャンスは音楽の授業が始まる前の休み時間だけ。前の授業が終わったら一目散に音楽室へ行き、ピアノを弾く。ああ楽しい。
しかし、それを妨害するヤツがいました。いわゆる「不良」という存在。
僕は当時、吹奏楽部の部長であり、合唱祭ではピアノ伴奏(独学だったのに!)と指揮をして、全校生徒の集まる式典に於いては校歌斉唱の指揮者に抜擢されるなど、音楽関係でのみ異常な目立ち方をしていました。不良くんは多分それがとてもシャクに触ったのでしょう。ピアノをジャンジャカ弾いている僕の背中に連続中段蹴りをかました後にこの一言、
「男のクセにピアノなんて弾いてんじゃねーよ!」
チコちゃんに叱られたかのようなこのセリフ。30年経っても忘れられない。そもそもこの行為、多分捉えようによってはイジメになるのかもしれませんが、当時の僕は自尊心が異常に強くて(え?今もだって?)、確実に僕の方が上であるという自覚が強かったために、「ああ嘆かわしい。何と低脳な生き物なのでしょう」くらいにしか思っておらず、取り合う気すら起きなかったのでイジメではないと思われます。そんな塩対応だったので、それ以上何かされたこともありませんでした。
いや、その話は今はどうでもいい。僕はこの不良くんの口から勢いで出てきた「男のクセにピアノを弾くな」という言葉が、クラシック音楽が堅苦しいと思われることと関連性があるように思ったのです。
学校内に於いて音楽できる男子は世間のスイーツ男子と同じ見られ方をする。
クラシック音楽が堅苦しいと思われる理由の一つが「導入がアカデミックだから」だと思います。
クラシック音楽は学校の授業で取り上げるもの、という位置付け。
授業なので全員が参加する。全員が同じ曲を歌い、楽器を演奏し、鑑賞する。そしてテストがある。その結果、点数が発生したり、成績として評価される。
しかし、小学校のときはまだしも、中学生になると思春期に突入。好きな子ができちゃったりして男子は特にカッコイイところ(カッコイイところ=基本的はスポーツ。できれば同時に優秀な成績)しか見せたくない。
しかし音楽の授業は絶対にある。下手すると歌の試験がある。声変わりしてきた男子には歌はとても難しい。カラオケだったら気の合う友達だけでワイワイやるだけだから好きだけど、授業はそういうんじゃない。教科書には若者の気を引こうと大人たちが一生懸命選んだポップスもあるけど、そういうことじゃない。
そもそも音楽なんてきちんとやったことないから、いきなり歌えと言われてもまず楽譜が読めない、どうすればできるようになるのかもわからない。楽譜の読み方なんて授業で教わってもわかるわけがない。そもそもそんなことに時間を費やしているヒマはどこにもない。塾だ成績だ部活だ。
でも...カッコワルイところは見せたくない。
結論:『音楽なんて興味ねーし!』を貫くことが得策(無意識、もしくは周りの空気感がそうさせる)。本当は音楽が好きで歌が好きで楽譜もちょっと読めちゃう子も、あんまりできないフリをする。ハッキリ歌わない。恥ずかしいから。
カラオケであんなにでっかい声で叫んでたのにはずかしい?それとは違うんだって。
空気を読むことにはひときわ敏感な思春期は、「男子は音楽ができないの!そういうものなの!」という設定で落ち着いたってのに、何だあの男子はピアノを弾いてやがる!吹奏楽部で部長だと?!楽譜が読めて指揮までやりやがったなゴルア!てめえ空気読めや!
そりゃ蹴られるわ。(いや蹴っちゃダメよ)
そうそう。これを書いていて思い出したのが「〇〇男子」というフレーズ。今までは女子が主に行っていたこと、流行っていたことを男子(ただしイケメンに限る)が行うギャップ萌え。
そのさきがけとなったのがスイーツ男子だと思います。カワイイ男の子が「ボク甘いもの大好きなんですう」と言うと女子からワーキャー言われるんだかなんだか。本来スイーツは女子の食べ物と世の中ではされてきましたから、逆手に取ったキャラクターの売り込みが成功したわけですが、あれが音楽でも出てくるんですよね。
それにしても男子が甘いもの苦手ってどこから生まれてきたのでしょうか。遺伝子レベルで証明できたりするのかな。しないな。
音楽は女子がするものという古い古い風潮の破片が、小さいながらも未だ飛び回っています。戦争の影響でしょうが男子は運動で体を鍛えて、女子は室内でピアノのおけいこをする。
学校教育における音楽の授業がクラシック音楽を堅苦しいものと位置付けしてしまっているのは確実だと思われます。
音楽や美術は進学と関係ない、とよく言われてないがしろにされがちですが、だったらいっそのこと楽譜の知識とかそんなのどうでもいいから、リトミック的な音楽遊びの中学生版みたいなのを作って、それにスポーツ要素とかも織り込んだりすれば良いんじゃないかと思います。
クラシック(管弦楽曲)を鑑賞するにしても、「主題ガー」「調ガー」とか、もうそんなのどうでもいいから、ほらここでキリストが復活したぞ!すごくね?とかラフで良くないかな、と。宗教を題材にした「聖おにいさん」、あれは秀逸ですよね。あのようなスタンスで音楽をきちんと学ぶこと、できると思うのです。導入部分が大事。
「クラシック音楽」という言葉だけで「ああ堅苦しいな」「自分とは関係ないや」と思われてしまう風潮は、音楽の授業で感じたつまらないアカデミックさが原因のひとつであると考えています。
荻原明(おぎわらあきら)
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