ダメ出しではない指導に。

だいぶ前になりますがNHKの合唱コンクール(Nコン)に出場するために奮闘するどこかの学校の合唱部をドキュメント番組っぽく放送していて、その時の上級生が先頭に立って指導するシーンが印象的で未だに記憶に残っています。

その生徒はとても責任感が強く、自分が何とかしなければ、パートリーダーとしてちゃんとしなければと思う気持ちが空回りして、厳しくしすぎて孤立していました。

というのも、その子はパート練習で悪いところをダイレクトに指摘するためにネガティブな言葉ばかりが出てくるわけです。


「音程が悪いので気をつけてください」

「リズムがずれているのでちゃんと合わせてください」

「歌詞が聞こえないのではっきり発音してください」


この連発。しかし一向に良くならない。悩む、落ち込む、もっとちゃんとやらなきゃ。そしてもっと厳しく指摘するループ。


僕はこのリーダーの子を責めるつもりはありません。彼女なりにとても頑張っているし。でもこの頑張り方って危険ですよね。このタイプってメンタルダメージが大きくて心が折れてしまう可能性高いです。テレビ局が面白がって編集しているのでしょうからそう見えるだけかもしれませんが、これがもし本当だったら周りの大人がサポートしてあげないとマズい。


というか、何の話をしたかったのかと言うと、この合唱部に限らず吹奏楽部でも子どもたちだけで練習をしていると、「音程悪い」「リズム悪い」と言ったいわゆる「ダメ出し」が前面に出てきやすいな、と以前から感じていて、もちろんこうした指摘は曲作りや作品を形にしていくための大切な要素ですし悪いわけではないのですが、僕が気にしているのは「音楽作りは間違っていることを直すこと」という発想になると「違う」「合っていない」などと直接ネガティブな言葉で斬ってしまう点です。


子どもがそのようにするのは明らかに身近な大人の影響です。音楽指導をしている大人がそのような方法で子どもたちに教えているから、「指導とはそういうものだ」と、自分たちも同じように実践するわけです。


僕自身もそれに気づく前は悪いところを指摘していくレッスンをしていたように思います。しかしこの番組のおかげもあって、「音程が悪いな」と感じても直接的に「音程が悪い」とは言わず、ピアノなどを使って音階を聴いてもらい、歌ってもらい、調の話や音程のしくみ、音程と調性の関係、実際に僕がトランペットで吹いてみたり一緒に吹いてみたり、そうした多角的なアプローチで少しずつ音楽的方向性を安定させていくレッスンをするようになりました。時間がかかりますがこのほうが絶対に安定しますし、様々な場面で応用がききます。何よりこのほうが「音楽的」です。


否定的な言葉を使わずに解決する。時間に追われてどうしても直接的な言葉を投げたくなるのはわかりますが、奏者を尊重し、常に音楽的で心が豊かになる練習時間でありたいと思っています。



荻原明(おぎわらあきら)

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