SNSで現役のオーケストラトランペット奏者の方がソロを演奏されている動画を拝見しまして、その時「僕にはできない演奏だなあ」と真っ先に感じました。
正確で非の打ち所がない丁寧な演奏。でも全く機械的ではなく、音色も豊かで心を動かされる表現力も持ち合わせている、まさに「安定感」。実力や努力のなせるわざだと思いますが、それ以上に奏者の持っている性格や音楽やトランペットに対する向き合い方がそうさせているのだろうと強く感じました。
なるほどこういう方がオーケストラ奏者になりうるのだな、と妙に納得したと同時に、何度オーディションを受けても即落ちしてきた自分の演奏やスタイルにも納得しました。
〜 〜 〜 〜
「適材適所」という言葉があります。辞書だとこう書いてあります。
てきざいてきしょ【適材適所】
人の能力・特性などを正しく評価して,ふさわしい地位・仕事につけること。
例えばRPGをやっていて、戦士や武闘家のほうが戦闘が有利になる敵がいる一方で、防御魔法を駆使して攻撃を片っ端から跳ね返してしまう敵の場合は、呪文系のキャラクターがいないと歯が立ちません。そもそも回復系の魔法を使えるキャラが戦闘に参加していなければそれ以前の話になってしまう。
回復系の魔法使いは往往にして攻撃力が弱く、攻撃呪文もあまり持っていないので、じゃあ「戦いに向いていない」と言うのは筋違いです。最前線に立たなくても戦闘に参加していることに変わりない。
そしてこれはそれぞれのキャラクターが得意とするスキルが明確だからこそ、言えることです。何が得意だかよくわからないキャラクターをパーティに入れるなんてことは普通しません。
適材適所という言葉は、その場に集まった人たちの得手不得手を見抜いて、配属なり担当させる側のスキルの高さを持った人へ対する言葉だとイメージしていたのですがなんだかちょっと違うのではないか、と最近思います。
なぜなら僕が昔から憧れ、目指していたオーケストラプレイヤーになれないにも関わらず、20年以上トランペットや音楽に携わり生きてこられたのは、まさにオーケストラ以外の適所があったからなのだろうと思うのです。
僕の場合はレッスンや楽譜を書くこと、そして文章にすること。もちろん演奏活動だってオーケストラではないにせよ毎週のように行っていますが、自分ができることを明確に主張することによって音楽という世界での僕の適所がだんだんと決まってきたのかもしれません。
これは、じっとしていたら誰かが存在を見つけてくれて、親切に適所を提供してくれたなどというものではありません。コツコツやってるだけでもこれは実現しなかったでしょう。まさに発信し続けた結果だと思うのです。
本当は素晴らしいスキルを持っている(努力によって開花できる何かを持っている)のにもかかわらず自分ができることを明確に主張しなければ誰も気づけないと思うのです。そうした人に適材適所を与えられる可能性はほとんどないわけで、結果的に誰もやりたがらない残りの空きスペースだったり、得手不得手関係なく強引にその位置に置いただけになるので、本人も辛くなってしまう可能性が高い。だから、自分がやりたいこと、できることはどんどんおもてに出して、主張していくことが大切だと強く思います。
ただ、音楽に限って言えば「演奏できます」というジャンルはあまりにも一般的すぎてそれだけではスキルを主張するのはとても難しいと思います。ひとつのことに異常に長けているか、いくつかの組み合わせレベルが高い存在であるほうが適所は明確になりやすいものです。ちなみに適所は一ヶ所とも限りません。
日本人は目標に向けた「過程」の努力をどれだけしたかで満足しがちです。しかし、結果のクオリティで最終的に判断されるのは当然のことです。なぜそのような風潮に日本がなったのかはここでは伏せておきますが、いつまでたっても「テスト勉強何時間やった」とか「寝てない自慢」「残業」など、質よりも量だけの過程自慢ばかりで結局テストが何点だったのか、残業をしたことで何が成長して、どんな結果を残せたか、という効率性、結果についてはほとんど話題にしない独特の雰囲気が日本にはまだまだ強く根付いています。
過程自慢はほどほどにしてそれ以上に「こんなことができました!(できます!)」という完成品をどんどん出していくべきです。自慢したければクオリティで勝負すべきで、それが適所を明確にできるのだと早朝にメガポリスをやりながら思った次第でございました。
プロオーケストラのトランペット演奏動画を見て真っ先に感じた「僕にはできない演奏だなあ」はただの逃げにだし、自分でそう思ってしまったことがとても悔やまれます。オーケストラに入れなかったとしても、そんなこと言わずにこれからも精進して、多くの方に認めてらもえる演奏家にも成長していきたいと思います。そういうの、年齢とか関係ないですからね。
荻原明(おぎわらあきら)
0コメント