音で心を伝える、これはいつでも同じこと

吹奏楽コンクールが近くなると、途端に熱量が上がる部活は相当多いと思います。


僕が中学校の頃もそうでした。特に夏休みに入ると朝から晩までずーーーっと部活で、ほとんどの時間合奏。暑い中体育館に猛烈な勢いで楽器を移動して(音楽室は4F、体育館は1F)汗だく息切れしながら合奏をする。こんなことが連日続いていました。


当然精神的にも肉体的にも疲労します。金管楽器、とくにトランペットなどはバテますから、そもそも長時間の演奏は大変に難しく、休憩を多く取るとか、安定した奏法を得るための知識や実践などが必要になります。

しかしそんな猶予は与えられません。バテるのは練習量が少ないからだ、気持ちが弱いからだ、バテてからが練習だ。バテても演奏し続けられる方法を見出すのだ。これを本気で言っていましたから30年前は恐ろしい時代だったなあ。実際に潰れて音が出せなくなる人や、体調を崩して数日間部活に来られなくなる部員も多発して、当然ですよね。人間の体力や精神力なんてそんなに保てるはずがないのです。


先日、情報がこれだけ多く飛び交う現在でもこんなことをしている部活があると聞いて驚愕しました。

なんでも、水分摂取の時間以外を取らずに何度も何度もコンクール曲を通させるそうです。自分が技術的にできないことを発見したり、集中力を高めることが目的だそうですが、ちょっとまってほしいのです。


それ、そんな方法でしかできないのですか?


もっと方法はいくらでもあるでしょう。そんなの戦時中の軍隊と何も変わらないじゃないですか。「私は指導力がありません」と言っているようなものです。

そんなことしているから吹奏楽部を引退すると、もうお腹いっぱいになって楽器を辞めてしまう人が多いんです。そんなのおかしい。悲しい。



僕はトランペットのレッスンでよく「解決するためには核を見つける」という話をします。例えばタンギングをもっとキレイにできるようになりたいからと舌だけに着目しても解決しません。アンブシュアがー、角度がー、マウスピースの位置がー、という話もよくありますが、音がなぜ出るのかという原理を理解した上で、その個人差を克服するための研究や実験を繰り返すうちに自分のベストの吹き方が見えてきます。その時の口周辺の見た目が「その人のアンブシュア」であり、楽器の角度であり、マウスピースの当てる位置なのです

最も核になる部分を見出して、原理を理解することで、いわゆる奏法というのは解決の糸口を明確にできます。


これは中学校の吹奏楽部であっても結局同じで、豊かな響きを得たいとか、流れる表現ができないとか、ピッチが合わないハーモニーが汚いとかそういった問題はすべて核になる部分があるのです。それを的確に見出して解決する、このスキルが部活動や愛好家団体の指導者が持つべき役割のひとつです。

それがないから何度も何度も演奏させて精神も体力もすり減らす、などというもはや暴力とでも言える行為を平気でしてしまうのです。



ちょっと話がそれましたが、僕が今回最も言いたかったことは、コンクールだけに熱力を上げて欲しくない、という点です。確かに出場するなら高い成績を残したいです。それは当然。

しかし、町内会の行事で1曲演奏するのもコンクールと同じ「音楽」です。何も変わりません。

なぜなら音楽は作品(作曲者)と演奏者の心を聴く人に届ける(届けたいと思う)行為だから。自分たちの演奏を聴いてくださる方が、その音楽によって何かを感じる、思い出す、笑顔になる、胸が締め付けられる、好きだなと感じてもらう、愛する人に会いに行きたくなる、そんな力が音楽にはありますし、それが芸術です。


ですからコンクールに対してそこまで熱量を上げるのであれば、他のすべての演奏(それは本番以外でも)も同等な熱量で接していかなければ音楽に対して、本番に対して、聴いてくださる方に対して失礼です。そう考えると、コンクールとの向き合い方、その方法が異常であるとわかるはずです。

ちなみに僕が中学生の時の指導者は、コンクール以外の本番に対する熱量が冷蔵庫みたいに低かったのでそれがとてもイヤでした。例えばミュージックエイトのポップスの楽譜は「俺はこの曲知らない。テンポどのくらい?」と言って何の感情も持たずに指揮棒を振り、適当に通せれば終わりにしてしまう姿勢。一方でコンクール曲は作品の背景まで調べさせておいて、この温度差はなんだ!と中学生ながらに思っていましたよ。



コンクールでいい結果がほしいからと、演奏者の精神と体力を擦り減らさせて奏者は幸せと感じますか?

京都市交響楽団のコントラバス奏者、Juviちゃんがこんなツイートをされてハッとしました。

僕も少し忘れかけていたことです。みんなが幸せだから音楽は素晴らしいのです。

素晴らしい音楽は幸せでなければ生まれないと思います。


ともかく、健康な音楽をしませんか?





荻原明(おぎわらあきら)

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