まずは相手を認めてください。

今春から音大生になる生徒さんの最後のレッスンで、音大生になるにあたり伝えたいことを文章にして渡しました。レッスンの時にも散々話したことでもあるのですが、せっかくなので保存版として作ってみました。できれば捨てないでいて欲しい。今わからなくても、数年経ったら、大人になったら「そういうことだったのか」といつかわかる日が来てもらえればそれでいいのです。


その中にこんなことを書きました。


『相手の演奏についてとやかく言わないこと。みんな頑張っています。相手の魅力を見つけ、相手を好きになってください。たとえ後輩でも、指導先の部活の中学生でも、演奏に関して言及する際は言葉を丁寧に選び、お互いが前向きな気持ちになれるように心がけてください。こんなことは絶対ないと思いますが、相手を蹴落とそうとか、気分悪くしてやろうなどと思って発した言葉は全部自分に跳ね返ってきます。(後略)』


自分にも戒めているような感じで書きました。


「厳しさ」という精神は人間を成長させます。しかしそれは時と場合によります。言い方によってもその結果はまるで変わります。

演奏について何か言及するのは、基本的にレッスンという場のみです。レッスンとは「教わる人」と「教える人」の立場が明確になって初めて成立するものであり、それぞれがその立場であることを納得している必要があります。


さらにレッスンの中でも、お互いを尊重していることが必要で、教える側が何言っても良いわけがありません。


ですから、動画サイトでよく目にする演奏批判コメントやなぜか先生みたいな口ぶりでアドバイスをしているのは、僕はすべて筋違いだと思います(「教えて欲しい」「罵って欲しい」と動画の主が言ってるのであれば別)。

まずは相手を認めてください。良いところ、魅力的なところ、伸びたら輝けそうなところ。そうしたものを見つけてください。たくさんあります。そして良いところがあったらどんどん伝えてください。「あなたの音、素敵だね」と言われて嫌な気持ちになる人はいません。


一方で人の演奏の良くないところを指摘する、そういった部分ばかりを耳で捉えてしまうというのは、音楽そのものをネガティブな方向で捉えている証拠です。そういう人は自分自身の演奏についても言い訳がましくなりがちで、ミスを恐れるあまり守りに入って演奏が小さくなったり、相手の言動に怯えて自分の心をオモテに出せず、結局何をしたいのか聴いてくださる方にメッセージが届かないなど、音楽の持つ本質がどんどん失われていきます。


音楽は心をつなぐものです。




荻原明(おぎわらあきら)

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