吹奏楽コンクール向けの指導などない、と思っています

夏休みに入ってからの吹奏楽コンクールに向けた練習が嫌いでした。


僕が中学生の頃の話です。夏休みに入ると今とは違って朝から晩まで連日練習できる時代でしたから、とにかくずっと汗かきながら(学校に冷房なんてなかった)トランペットを吹いていました。


吹奏楽は好きでした。トランペットを吹くのも当然好き。でもコンクールに向けた練習は嫌い。


なぜなら、合奏時間のほとんどが半ギレの外部指導者(OB)がキーボードとチューナーで「音程!」「高い!」「低い!」と叫んでいるだけだったからです(音程と言っているけど正しくはピッチのこと)。これが連日何時間も行われる。


今思えば、この「音程!」発言だけでなく、音楽に対するアプローチの数があまりにも少ない。テンポが合わない!と怒られては指揮者は棒を譜面台にカンカンと叩きつけてそれに全員を合わせさせる。できないと怒鳴る。怖いし、何よりすごくつまらない。


音楽ってこんなにも忍耐力が必要でつまらないものなのか。そんなことを考えながら怒られないようビクビクして合奏に参加していました。


この講師が最も問題だと思ったのは、問題点を見抜くことはできても解決方法がわからないので怒鳴り、生徒たちへその責任を押し付けてしまっていた点です。講師は「重箱の隅をつつくような練習をしなければ金賞は取れない!」とよく言っていましたが、それが正しいかどうかはともかくとして、重箱の隅をつついてもそこにあるものがいつまでたっても取れないような方法しかできないのですから、これはまったく意味がない。


楽器を始めて2,3年の何の知識もない中学生に対して「なぜ音程(ピッチのこと)が合わないんだ!合わせろ!」とか「テンポ走る!」と怒鳴ったところで指導者も奏者も解決方法がわからないのですからみんなが不幸になるだけでした。今の時代のように複数の楽器の専門家が部活を見てくれていたわけではないので、すべてのパートは独学だったんです。



前置きが長くなりましたが、こうした経験は反面教師として今でもありがたく参考にさせてもらっています。


昨日、とあるコンクール直前の部活動にレッスンに行きまして、金管打楽器分奏をした後、合奏レッスンもさせてもらいました。

合奏レッスンは、顧問の先生が指揮をされている状態で僕は指揮者の横に立ち、奏者にも指揮の先生にもアドバイスをする、という形で行いました。


僕は、自分が中学生だったときのあの嫌な経験から、音楽はどんな時にも絶対に楽しくなければいけない、というポリシーがあるので、コンクール直前であろうとも、安っぽいメッキがけのような、表面的な完成度を高めるためだけにハーモニーディレクターを使って奏者ひとりひとりに「高い低い」を繰り返すレッスンは決してしません。


しかしそれは、ピッチをないがしろにしてもいい、という考えではありません。ピッチが悪いからピッチを直す、というあまりにも安直な発想では何も解決しない、という意味です。


僕がやりたいのは常に「音楽」です。音楽とは作品を理解し、奏者がそれを聴く人へ届ける行為。音による心の伝達。そのためには「興味深さ」「知識を得ることの楽しさ」が練習に含まれていることが絶対に必要である、と考えます。


音楽はどんな時にも絶対に楽しくなければいけないので、練習も常に楽しくなければならないのです。


コンクールで演奏する作品の舞台背景を理解してイメージを共有し、縦の線が合わない場所はまず拍子の原理をみんなで理解した上で、音楽的にポイントが集中する場所に気持ちを合わせる。ピッチはそもそも楽器を無理なく響かせるための奏者の体の使い方とソルフェージュがポイントなので、音がなぜ出るのか、そのために人間がすべきことは何かを理解して、強弱記号や楽語など楽譜から得られる知識を音楽的に解釈するためのアプローチなど、とにかく理論をできるだけわかりやすくそして興味深いと感じてもらうための話と実践をしています。


コンクール前になるど指導者が突然焦りだして、奏者の技量をdisり始めることが多いですが、奏者が悪いのではなくて、コンクール以外の時期のレッスンやアプローチが問題だった(手を抜いていた)のが原因なので指導者の問題です。なのに「なぜできない!」と奏者が怒られる。なんという理不尽さ。

そもそも、その場で何でも改善するなど部活動ではありえないのですから、まずは原理を理解し、解決するには何をすべきか、そしてそれを自発的、意欲的に奏者が行える「やる気」を持ってもらうことが必要で、これも指導者の技量のひとつです。


正直、数年前までの僕にはここまでの指導はできなかったと思います。理論や知識、音楽経験など様々なスキルを持った上で、それを限られた時間の中でわかりやすく伝える技術。


昨日も短時間のレッスンではありましたが、楽器を演奏しているみんなが笑顔になって、自信と意欲を持って作品に取り組むために興味深い指導を心がけました。


とにかく音楽をつまらないものに感じて欲しくない。


もしかすると僕のこういった考えはコンクールの全国大会を目指すような学校の人から見たらダメなのかもしれませんが、コンクールより音楽。コンクールも音楽。音楽を愛して心から楽しむことがコンクールでも演奏会でも絶対に最優先にすべきことだと思っているので、コンクール直前だろうが何だろうが常にこのようなアプローチでレッスンをしています。


だからコンクールに向けて頑張って!よりも、やはりここでも「音楽を楽しんで!」と伝え、昨日も学校を後にしました。





荻原明(おぎわらあきら)

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